2.光(開口部)

いい光に包まれた家と云うのは、家の中から1日がスタートします。中からというのが重要。

普通、1日の始まり=朝は、東から昇った太陽の光が家の中に入ってきて、朝を感じるといった具合です。

つまり光は、外から中へ。そんなの当たり前じゃないかと思うのですが、それが違うのです。

光について深く考えている家では、まったく逆のことがおこります。

家の中からポワーっと優しい光が外へ向かってあふれでていき、家全体が内側から膨らんでいくような、そんな

力が感じられるのです。

近頃では、『家』と云えば合言葉のように、「とにかく明るくしてください」と。明るいのが悪いというわけでは決して

ありませんが、どの部屋にいても燦々と光が降り注ぐような家が、必ずしも快適であるとは云い切れないのです。

各々の部屋に合った光の量というものがあり、例えば、書斎や子供部屋で本を読んだり、勉強をしようと思えば、

南側に大きく開いた窓は必要ありません。燦々と日が当たる場所で本を読んでも、たいして頭に入ってこないから

です。やはり、本を読んだり、勉強をしたりするには、静かで落ち着いた一定した光が入ってくるような場所がいい

のです。

私の部屋にも、東と南に大きな窓があり、朝は気持ちのよい光がさしこんできます。学生時代に、この気持ちのよ

い部屋で勉強をしようと思い、張り切って机に向かいました。

ところが…心地いいはずの朝の光が、逆に眩しすぎて集中できなくなり、北側の暗い部屋に移動したという経験

があります。このように、光は使う部屋、目的によって気持ちのよい空間を演出してくれたり、逆に居心地が悪く

なったりと様々に変化していきます。

それ故、光や風を取りこむ『窓』のもつ意味合いはとても大きく、空間としての居心地のよさを決定的に左右する、

重要な要因のひとつなのです。

大きさ、位置、開閉の仕方など、どれをとっても思慮深々。外と内をどのようにつなげ、その部屋はどのような光を

求め、どのような景色を見せたいと思っているのか。風を招きいれたいのか、それとも香しい匂いを求めているのか。

『窓ですべては完成する』と云われているほど、窓は建築にとって最重要ポイントなのです。

すべてが明るく均質であると、奥行き感は失われ、のっぺりとした貧素な空間となってしまいます。

暗い陰を宿す場所があるからこそ、明るい光に満ちた空間がいきてくる。

明るい場所を際立たせるための暗い『陰』の存在…。

古来より、日本の美しさは、陰翳の中にあると云われてきました。明るい場所ではなく、陰の部分に美を見つける。

なんとも日本人らしい、奥ゆかしい感覚です。谷崎潤一郎さんもその著書『陰翳礼賛』で日本の陰翳の美しさを語っ

ています。『美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える。陰翳の作用

を離れての美は存在しない。』と。

淡い陰から漆黒の闇に至るまで、陰は密やかにその美しさを発展させてきました。この明暗の対比こそが、空間に

奥行きを与え、厚みのあるいきいきとした空間を生みだすのです。陰から見る外の明るい世界は、とても綺麗に見

えるものです。光の美しさ、ありがたさを再確認できる瞬間です。

こういう些細な自然の美しさにはたと気づき、心の中にそっとしまっておく。このようなかけがえのない瞬間が、生活

の一部としてあってもいいのではないでしょうか。